「Blind world〜終わることのない悲しみ」

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第二話 説子〜失踪

 「ねぇ、やっぱ『ペインズ』のライブってカッコいいよねぇ。みんなもそうおもわなぁい」
恭子がとつぜん大きな声で話はじめた。まわりにいた友達は一瞬キョトンとした表情になる。恭子がとつぜん大きな声を出したからだけじゃなくて、そんなパンクバンド誰も興味はなかった。それにみんな恭子に遠慮してた。というよりも、みんな恭子には逆らえなかった。私も小さい頃から恭子はすこし苦手だった。恭子と私は幼なじみだ。恭子の性格は、あの頃とすこしも変わっていない。もちろん私も・・・。そんな事もあって、私はまわりの子達よりは恭子に口ごたえしてた。まわりの子達はすこし不良ぽくて私は浮いていたけど、恭子に口ごたえできるという事で一目置かれていた。けど、私にはそんな事あんまり意味はなかった。べつにこの子達と友達になりたくて一緒にいるわけじゃなかったから。ただ、恭子にムリヤリ引きずり込まれたって感じだった。どちらかといえば、1年のときに知り合った友達の方が、気楽に付合えた。ここにいる子達はみんなそれを知っていて、恭子がいないときはあまり話し掛けてこない。はっきり言って話が合わなかった。もちろん恭子とも。恭子はそう思っていないようで、よく私に話しかけてくる。『ペインズ』なんてぜんぜん興味なんかない。それに今はそれどころじゃなかった。私のお兄ちゃんが失踪してしまったのだ。もう、3ヶ月にもなる。お父さんは会社での立場がどうのこうので、捜索願を出そうとしないし、お母さんはお父さんに逆らえないようで、何もできないでいた。私の頭の中はそんな事でいっぱいだった。そんな私は通り行く人たちに目をやり、辺りをきょろきょろとまるで田舎者のように歩いていた。近くにお兄ちゃんがいるんじゃないかと思って・・・。  「・・セツ・・セツ・・・セツってば!」
 恭子は私に向かって怒鳴っていた。私は我にかえって恭子のほうに顔をむける。
 「・・ど・どうしたの?」私はとてもマヌケな返事をしたような気がする。
 「どうしたじゃないわよ!あんたわたしのはなしきいてんの!」恭子は私をにらみつけ、ほっぺたをふくらませていた。私はそんな恭子の態度に逆ギレしてしまった。
 「き・聞いてたわよ!」聞いていたのは確かだ。ただ、聞き流してたんだけど・・・。私たちのやり取りをまわりの子達はただ見ているだけで、だれ一人ここへ割って入ろうとする子はいない。誰も口では恭子に敵う子はいなかったからだ。
 「じゃぁ、わたしがいったことはなしてみなよ!きいてたんでしょ!」恭子はなおも突っ込んでくる。私はくやしくて下唇をかみしめたが、恭子の顔を直視できなかった。なんとかしてよなんて思いながら、まわりの子達をちらちら見たが、そのたびに彼女達は困ったような顔をしていた。そんな時だった。彼女たちのひとりがとつぜん声をあげた。
 「あっバス着てるよ!」その声にここにいる全員の視線がバス停の方へ向いた。あんな調子で私に突っかかっていた恭子までも・・・。
 「じゃ・じゃぁあたし達あのバスに乗ってくから!バイバ〜イ」
 彼女達は、まるで授業が終わってよろこんでいる小学生のような顔してそう言うと、一目散に駆け出した。
 「ちょ・ちょっとぉ!」恭子は彼女達を呼び止めようとしたが、彼女達はそれよりも早く走り去ってしまった。
 「もぉ、なによ!」恭子はまたほっぺたを膨らませてそう言う。私はそんな恭子の言葉を聞いて、それは私が言いたいわ。そう思った。私の家はここから歩いて約20分。もちろん恭子もいっしょだ。だって、恭子の家は私の家から一戸はさんで隣にあるからだ。最悪〜!まるで泥沼に引きずり込まれるような気分だ。こんな雰囲気の中20分もどうすればいいのよ。そんな事を思いながら私は恭子についていくように歩きはじめた。
 「・・セツ、あんたさいきんおかしいよ」そう言った恭子の言葉に私はとまどってしまった。とつぜん優しい口調になったもんだから。けど、なぜかなにも言葉をかえさなかった。
 「そういえばさいきんあんたのアニキみないけど、どうしたの?もしかしていなくなっちゃったとか・・なんちゃってね!きゃははは・・・」恭子はそんな事言いながら笑っていて、冗談だよなんて言って、私のおしりをポンとたたくと肩に手をまわし、よろけるように私に寄りかかってくる。こんな恭子の態度に、私はいつも振りまわされっぱなしだ。しかもあのセリフ、私には冗談になっていない。あ〜笑っている場合じゃないわよ。私はそんなことを思いながら、うつむいたまま歩いていた。

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