「Blind world〜終わることのない悲しみ」

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第六話 愛美〜秘密を知る男

 愛美は街で出会った、あの時の男の事を思い出していた・・・

 その時の彼女は、会社の帰りだった。仕事の最中、突如として『アレ』が起る予感がして、やむなく早退する事にしたのである。
 彼女にとってこの昼時の風景は、あまり見慣れたものではなかった。若い母親とその子供。携帯電話で話しながら、あくせく歩き回るサラリーマン。乳母車のようなものを押しながらお喋りしている二人の老婆・・・。彼女の前に広がる風景は、紛れもなく昼時の街そのものだった。彼女がその身を置いている、暗がりの世界には存在しない人たちばかりだった。
 彼女は人ごみを嫌った。『アレ』が起るのを見られたくはなかったのはもちろんだが、『アレ』が起ることで、自分が慌てふためく様を人には見られたくはなかった。それでも平然を装って歩こうとしたが、その顔には、明らかにそこからくる疲労の色がありありと出ていた。
 その時だった。通りの向こうから、一人の男が歩いてくる。その男は、何処となくこの街に溶け込んでいないようにも見える。周りのサラリーマンと同じようにスーツを着てはいるが、その生地の色、着こなし方、髪形、両手をポケットに入れて歩く態度、それらを見ると何処となく異質な香りを漂わせていた。そして何よりも、彼女が違和感を感じたのは、その男が自分を見つめているような気がした事だった。彼女とその男の距離は、徐々にそして確実に縮まっていく。それに比例するかのように胸の鼓動は早くなり、半比例するかのように『アレ』の起る気配が薄らいでゆく。そう『アレ』は感じていた。自分の身に起るかもしれない危機を。そして、その者から身を隠そうと息を潜めていた。しかし、男には解っていた。そのものの存在を。そして、そのものが確実に近づいている事も解っていた。
 男は目の前まで迫っていた。彼女は思わずうつむいてしまう。男はすれ違う間際、彼女の肩に手を掛ける。彼女は驚いて何か言葉を発しようとしたが、その精神的衝撃と、そこからくる動揺で、その言葉は宙へと舞ってしまった。二人はその場に静止し、一瞬の静寂が流れる。それを消し去るかのように男は話し出す。

 「どうした?随分苦しんでいるようだな。未だ自分の能力をコントロール出来ないでいるのか。まぁ、そのうち慣れるさ。そしてそれをどう使うかはあんたの自由だ。一つだけ言っておくが、どういう手段を選んでも、それを許さない者が必ず出てくる。十分に気をつけることだな」男はそう言うと、静かにその場を後にした。
 彼女は放心状態のまま、その場に立ち尽くしていた。微かに思考力が働くのを感じる。
 (・・どうして・・あの人が・・誰にも・・・言っていないのに・・・・)
 彼女の心の中には、それに対する恐怖と同時に、自分の事を分かってくれるであろう人がいる事への安堵感が湧いてきたのであった。

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