「Blind world〜終わることのない悲しみ」

TOP
第十話 クワイエット〜inquisitor

 里奈は救急センターの入り口に立っていた。足元には、人が倒れている。里奈は静かにしゃがみ、手で触れて確認する。そこに倒れているのは女性のようだった。微かに震えている。
 「どうしたんですか?」
 そんな里奈の言葉に、何の反応も示さない。どうしたものかと戸惑っていると、入り口の自動ドアが開いて、中から人が出て来たのに気付く。
 「すいません。ここに人が倒れています。中まで運んでいただけないでしょうか。私には・・・」
 そう言っていると、後ろから声がした。
 「おい、君!早く手伝ってくれ。急患だ!」
 どうやら声の主は医者で、入り口から出て来たのは看護婦らしいことが里奈には分かった。看護婦は急いで担架を取りに戻る。医者はそばに来ると、里奈に話し掛ける。
 「君、この子の身元は分かるか。・・・・ん!?君は目が見えないのか?どうやってここまで・・・」
 「いえ、たまたま通りかかっただけです。身元までは・・・」
 「そうか。それじゃ仕方ないな」
 そんな会話をしていると、さっきの看護婦が担架を押してやってきた。
 「先生早く!」
 二人は素早く倒れている女の子を担架に乗せて走り出した。
 「君もいっしょに来なさい。後で送っていこう!」
 医者はそう言いながら、建物の中に入っていった。
 里奈もその後を追うように、建物のほうへ歩き出す。その時、後ろから声がした。
 「お前は人助けが好きなようだな」
 里奈は立ち止まる。そこにいたのは、一人の女性だった。顔立ちは整っており、とても美しい女性に見えるが、その着こなしが変わっていた。中に着ているものは、普通のOLが着ている様なものだったが、その上には判事が羽織っているような黒いマントを羽織っている。頭には、つばの広い洒落た帽子を被っていて、天辺には大きな穴が開いている。そこから長い髪が出ていて、左胸の辺りまで垂れていた。もちろん里奈・・いやパペットにはその姿を確認する事はできない。ただ、気配を感じ、その存在を確認するだけだった。
 「珍しいな。お前の方から現れるとは・・。僕としては都合がいい・・探す手間が省けた・・クワイエット。いや、インクイジターと言った方がいいかな?」
 彼女は何一つ表情を変えない。
 「まだ私を追っていたのか。無駄だ、諦めろ。視力を奪われたにもかかわらず、まだ懲りないと言うのか。何故私が、お前の視力を奪ったと思う。お前に余計なものを見せないためだ。お前はただ世界の危機を感じ、それを人々に伝えていればいい。今、お前が成そうとしている事は、他の者がやってくれる。お前は自分の事を、『世界の操り人形』と言っていたが、その世界は、今のお前に戦う事を望んではいない。お前はただ彼らの『道しるべ』として存在していればいい。それがお前の使命だ」
 パペットは、彼女の話を静かに聞いていた。そして、コートの内ポケットにあったナイフを握り締める。クワイエットは静かに手を前へ出した。その手の平が、ほのかに発光する。パペットが振り向こうとしたその時だった。
 「時よ。静粛であれ」
 クワイエットは静かに言葉を放つ。その瞬間、時の流れが止まったかのように、全ての物が静止する。しかし、それは時が止まったのではなく、彼女が一定の時空間に止まっているのだった。そして、これが彼女の持つ能力の1つだった。
 彼女はパペットのそばへ歩み寄り、その肩に左手を添えて話し掛ける。
 「心配しなくてもいい。マイノリティはお前を必要としている。ただ、戦う事を望んでいないだけだ」
 彼女はそう言って、暗闇の中へ溶け込んでゆく。
 ・・・そして、時は動き出す。


 パペットは振り向き、手にしたナイフを取り出した。しかし、そこに彼女の気配はなかった。
 「・・・またか」
 パペットはそう言って、持っていたナイフを元へ戻し、救急センターへ向かった。

<< BACK ◎ NEXT >>



----------------------------------------------ここから下は広告です---------------------------------------------
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送