第十一話 真理子〜抱擁 私は病院のベットに横になりながら、白い雲が流れる空を眺めていた。 まだ体がだるい。担当の先生のおかげで、徐々にではあるが、体の方も良くなっているようだった。看護婦さんも気を使っているようで、優しくそして当り障りなく接してくれた。 『Type.M』あれのせいで、今の私はこんな状態でいる。・・・あれのせい・・。そういえば、この間の刑事さんが、私に言った言葉を思い出す。 (この事は、薬のせいにしてはいけないよ。・・こんな手段を選んだのは・・・君の責任の元に・・・。) 私は、あの刑事さんの言葉を今でもはっきり覚えている。・・そうだよ。あの人の言う通りだ。お父さんでも、お母さんでも、ましてやあの薬のせいでもない、私のせいなのだ。そう思うと、後悔だけが残る。とても悲しかった。あの時の私は、好きなことをして、けど何も成し得ていなかった。自分の行動に、何一つ責任を持てなかった。そんな愚かな自分が悔やまれてならなかった。私は、どれだけの人達に迷惑を掛けてきたのだろう。好きなことをする事は、ある意味で、周りの人達に迷惑を掛けることなのだと、改めて思い知らされる。 (お父さん・・お母さん・・・ごめんなさい。) 私は泣きたかった。大声で泣きたかった。けど、『・・君はこの事を後悔するだろう。けどね、泣いてちゃだめだよ。もっと前向きに生きるんだ。』と言っていた、あの刑事さんの言葉が頭に浮かぶ。私は、込み上げてくる感情を何とか抑える事が出来た。 「あら!真理子、起きてたの?」 それはお母さんの声だった。私は、声のする方をチラリと見て、また視線を窓の方へ移す。 「ねぇ、お腹空いたでしょう。お母さんね、あなたの好きなアップルパイを作ってきたのよ。これだったら少しは食べれるんじゃないかと思って。あなたは小さい頃から、お母さんの作ったアップルパイがとても好きだったものね。ほら、まだ温かいのよ。冷めないうちに食べましょう」 そう言うと、持って来た箱の中からアップルパイを取り出した。その芳ばしい香りが、この部屋に広がる。 「ほら、いい香りでしょ。今回のパイは、結構自信があるのよ。食べてみて」 それは、本当にいい香りだった。とても懐かしいような・・そう、これは私にとってお母さんの香りだった。とても嬉しいはずの香り。けどその香りが、逆に私の込み上げる感情を後押ししてしまう。 「・・ねぇお母さん」 私は、お母さんに背を向けたまま話し掛ける。 「ん?何?・・話ならあとあと!それよりパイが冷めちゃうわよ」 「何で私を叱らないの」 「え!?」 この部屋に、静寂が漂う。 「何で私のした事を叱らないの。私は叱られても仕様が無い事をしたのに・・・」 私はそう言いながら、お母さんの方へ向き直る。お母さんは、私に微笑みかける。 「あなたはちょっと迷子になって、疲れちゃったのね。仕方が無いわ。だって、あなたの地図はまだ書き始まったばかりなんだもの。だから、お父さんとお母さんがいるの。あなたが迷子になった時、こっちだよって教えてあげるためにいるのよ」 私は、もう涙を堪える事が出来なかった。一滴の涙が頬を伝う。私は思わずお母さんに抱きついた。 「・・お・お母さん・・・ごめんなさい」 お母さんは、私を優しく受け止めてくれる。 「いいのよ。分かってるわ。私の方こそ謝らなくちゃ。ゴメンね・・本当にごめんなさいね」 お母さんは、私の髪を優しく撫でてくれた。 「・・そんなことない。・・そ・そ・そんなことないよ!」 私は泣いた。大声で泣いた。・・・そして、そんな私を受け止めてくれたお母さんの胸は、とても温かかった。 |
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