第十四話 クワイエット〜可能性 もう、この辺り一帯は静まり返っていた。 病院の中も静寂に満ちていて、真理子はその一室で静かに横になっていた。 瀕死の状態であったため、真理子の周りには、生命を維持する装置が置かれており、看護婦が定期的に様子を見に来ていた。 真理子の両親は、部屋の前にあるベンチに座り、ただ黙って俯いているだけだった。 「なぁ・・なんで真理子はこんな事を・・何かそれらしい事に気付かなかったか」 真理子の父、陽平は静かにその口を開いた。 「私・・私・最近・あまりマリちゃんとお話していなかったから・・きっと、それが・・・マリちゃんは私のせいで・・・」真理子の母、友美は堪えきれずにあふれ出た涙をふきながら話し始めた。 陽平は、友美が罪悪感に苛まれている事を感じ、そっと肩に手を掛けた。 「友美・・お前のせいじゃないよ・・僕たちは人間で神様じゃない。間違う事もあるよ・・さぁ、もう泣かないで・・コーヒーでも飲んで、気持ちを落ち着けよう」 陽平は、友美に立つように促して、ロビーへと向かった・・・ ロビーへと向かう二人の後姿を、闇の向こうから見ている影がそこにいた。 奇妙な姿をしたその影は、静かに歩き出し、真理子のいる部屋の前で止まった。 「どうやら間に合ったようだ・・」 その影はそう言うと、間もなくして目の前にあったドアが音もなく開き、滑るように中へと入っていった。 部屋の中は、心電計の音だけが流れており、どんよりと闇に包まれている。そこには、辛うじて命を繋ぎ止めていた真理子と、そしてもう一人・・・ 「やはりお前か・・ミミック」 影は、看護婦の姿をしたもう一人の人物に話し掛ける。その人物は、不意を突かれたとでも言うかのように、慌てて振り返り、じっとその影を見つめ、ハッとなる。 「・・な・なんでお前が!・・俺たちはお前に興味はない。何故、今更俺たちの前に現れるんだ!」 ミミックと呼ばれたその人物は、そう言いながら後退りする。 「・・俺たち?・・まだそんなことを言っているのか・・お前はただ利用されているだけに過ぎない。奴らは、お前を仲間だとは思ってはいない・・それがわからないのか・・ミミック」 影はその場からピクリとも動かずに、静かにそう言った。 「そ・そんなこと、お前に言われたくはない・・それより、もう俺たちに付きまとわないでくれ!」 ミミックはそう言いながら尚も後退りする。 「・・それは出来ない。彼女はこの世にとって必要な人物だ・・この子の命を絶つ事は・・・私が許さない」 影はそう言うと、マントの中から右手を出し、その手をミミックの方へと伸ばす。 「ひ・ひぃ!」 ミミックはなんとも情けない奇声を発すると、窓ガラスを破って外へと飛び出していった。間もなくしてエンジン音が響き、その音は徐々に遠ざかっていった。 影は静かにその窓へと近づき、足を止めた。月明かりがそよ風と共に差し込んできて、クワイエットの全身を照らしていた。 「ミミック・・お前は自分を持たぬ哀れな男・・私はお前などに用はない。・・お前を審判するのは・・・あの男だ」 クワイエットはそう言うと、その右手を壊れた窓へ伸ばす。手の平がほのかに光り、窓ガラスが元の状態へと戻っていく。そして最後の一片が元の場所に戻った時、踵を返して、真理子のそばに近づいていく。 「もう、苦しまなくてもいい・・お前はこの世にとって必要な存在だ。・・生きて、この腐った世の中を変える手助けをしてもらいたい」 真理子の頬に添えられたクワイエットの手が、ほのかに光る・・ 「今、お前の消滅した可能性は蘇った・・時よ、この可能性を静粛に受け止めよ」 そう言うと、音もなく部屋のドアが開き、クワイエットは静かに歩き始める。そして部屋を出る間際に振り返る。 「・・心配しなくても良い。お前が道に迷った時、私はいつでもお前の前に現れよう」 そう言って、闇の中へと消えていった・・ ・・・そして時は動き出す |
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